2019年4月18日(木)

お口の中を楽しくコラム スペシャル

歯ブラシするわけ その2(実践編)

4)歯ブラシをちゃんと教えて

a ブラッシング指導の現場

ワタシが小学生と歯ブラシの話をするときの鉄板ネタ。

「何のために歯ブラシするのか、知ってる?

…お母さんに怒られるから。
…ではなくて~(笑、

虫歯にならないようにするためだよ。
だから、歯についた汚れがきれいにふき取れないと、
意味ないんだよ。」

そしてこのあと、
「意外と丁寧にきれいにするのって、たいへんじゃん?」
「しゃかしゃか上手に、元気にできるてるじゃん!」
など、

おだてたりそそのかしたり慰めたり叱咤激励、
なんとか身につくよう、言葉を探していきます。

b 歯ブラシの正しい姿勢

歯磨き粉のCMで、女優さんが歯を磨いているシーンがあったら、ちょっと意識して見てください。

もちろんどれも、よそ行きの姿なのですが((笑、
見事にペングリップ(鉛筆もち)で、小刻みな横磨きの場面を映しています。

  • ピュオーラ
  • システマ
  • クリニカ
  • 美白スミガキ「シャリシャリ」


すべてこの持ち方だけで隅々まで磨くのもムリなんですが、
とりあえずこれを基本形としています。

昔ローリング法といって、タテに回転するようになんて言っていた時代もあるので、またいつか違った方法が常識になるかもしれませんのであしからず(笑

c ブラッシングの基本

もう少し付け加えると、

「歯ブラシは鉛筆持ちで、歯を一本ずつ横磨き」

が基本です。

プラークは、強固にこびりついた汚れではありません。
ちょっと触れるだけで、取れます。
(ちなみに、ぶくぶくとお口をゆすいだだけでもおちませんけど。)

逆に、グーで握って元気よく一生懸命磨いても、
毛先が奥に届く前にぴょんぴょんと飛びはねてしまって、
意外と、歯の間や溝の奥まで届いていないのです。

だから鉛筆持ちで、少し落ち着いて(これ大事。笑)、
細かい動きで丁寧に磨くというのが基本です。

d 歯ブラシ指導の実際

ブラッシング指導時には、
大人・子供の患者さんそれぞれに応じて、

  • 性格(慎重派・おおらか派)
  • 器用・不器用(熱中するタイプ・少し興味なさそう)
  • 会話の程度(年相応の内容や話し方)
  • 生活習慣(朝はゆっくりだとか日常が少し不規則だとか)
  • 歯並びによる磨き残しの場所(歯並びは人さまざま)

などなど、相手を見ながら話を進めていきます。

「人を見て…」は本来あまりいい意味では使いませんが、
それでも人はそれぞれ千差万別、
最終的に上手な歯ブラシを継続してもらえるよう、
まあ、いろいろ言ってます。

磨き方は、実際に人から教えてもらった方が身につきますよ、と老婆心(笑

e ブラッシングのやりすぎ

もう一つ、あまりに力いっぱいこすってると、だんだんと歯が、削れてきてしまいます。

50年も60年もの毎日ですから、ごしごしこすっていると
歯ブラシの通った通りに、歯はまっ平になっていきます。
このあたりまでにくると冷たいアイスで、「ヒェ~」ってなります。

こちらは、金属ですら穴が開いてしまった状態です。

強すぎず、弱すぎずの力のコントロールは、大切なことです。
だから、ここでも、
落ち着いて(笑)鉛筆持ち、ということになります。

f 診療室でよく出る会話あれこれ

「歯の色がだんだん黄ばんできて…一生懸命磨いてはいるんですがね」

歯磨きを擬音で表現すると、“ごしごし”ですかね。
「歯磨き」という言葉から、
何度もこすって歯をピカピカに磨き上げるんだというイメージが、
あるのかなと思う時があります。

歯の色は、歯ブラシでいくら磨いても白くはなりません。
歯の色はお肌の色と一緒で、個人差があります。
年齢によっても、変化は出てきます。

歯ブラシで歯を磨くのは、
健康を目的として、清潔に保つためです。

歯が削れてしまった写真をお見せすると、
「あまり歯は磨かないほうがいいのですか?」
なんて質問もよく出ます。

その時は、
「正しい方法ならば、いくら磨いても大丈夫なんですよ」
なんてお答えしています。

「鉛筆もちじゃ、なんだか磨いた気がしないんです~」という、
気持ちの問題を話されている患者さんもいらっしゃいます。

それでもしつこいのですが、
「歯ブラシの目的は、白いねとねとをふき取ることですからね~」
と、お話して、微笑んでいます。(回答になっていませんけど。)

歯ブラシは三つ子の魂で、
脳の奥深いところに書き込まれていますので(おそらく)、
だから今までグーで握って歯を磨いていた人が、今日から鉛筆持ちでというのは、意外と大変なんです(これはほんとう)。

定期診査で、歯医者さんで何度も同じ話を繰り返し聞かされて、
正しい歯ブラシは、身についていきます。
幼少のころにちゃんと教えておいてもらえれば、もっと楽なわけでもあります。

まずは、
無意識で鉛筆持ちになっているようにまでになりましょう。

g 歯磨き粉のいいとこと悪いとこ

歯磨剤には功罪の、両面があります。

の方は、CMや広告で言っている通りです。
問題はの方です。
原因は、あの清涼剤による爽快感です。

歯磨き粉をつけて30秒もこすると爽快感が広がって、
満足感に包まれます。

また何度も同じ話を繰り返しますと、
あくまでも歯ブラシの目的は歯垢を隅々まできれいにふき取ることでした。

歯磨剤を使うと、
“隅々まできれいにふき取れたかどうか”という事実と、
“ああ、さっぱりした。満足。もう大丈夫”という感覚に、
差異が出てきます。これが、罪(ざい)です。

h 歯磨き粉の実際

洗濯機に洗剤を入れないと、汚れはあまり落ちないような気がします(やったことないですけど)。
しかし歯磨き粉を使わないで歯を磨いても、歯ブラシで歯垢がきれいにふき取れていれば、基本的に問題はありません。 

これは歯磨き業界を敵に回しているのではなくて、歯磨き粉をつけさえすれば大丈夫と思っている患者さんへの警鐘です。

どさくさでもう一つ警鐘を鳴らしておきますけど、
歯垢は、洗口剤であっても、ぶくぶくだけでは落ちませんよ。

歯磨剤を使わないと、歯に茶渋がついてくるのは事実です。
しかしそれで虫歯や歯周病が進行するということでもありません。
着色は歯医者さんに行けば、いつでもきれいにしてもらえます。定期診査に行くきっかけのひとつぐらいに思ったらどうですか。

i 実は歯ブラシは、する場面が大事

こんどは
磨くシチュエーションの話。

ダイエットも、いろんな方法がありますが、
それが続けられる方法かどうか、ということも重要です。

歯の健康維持も、「正しく磨く手技」はもちろん大切ですが、
「続けるにはどうしたらいいか」という問いも、重要です。

「やればできるんだけど、やらないのよね」
子供の頃によく親から言われたセリフです。

歯科医院でブラッシング指導を受けているとき、夢中になって隅々まできれいしていると、すぐ10分たっちゃいます。
それでもまだなんか完璧でない。
言い換えると、そこまでしないときれいにならないと言えます。

「でも、ふつー、歯ブラシなんか、毎日毎日、10分なんかしねーだろ?」

「それには、コツがあるの。」

何かやりながら、歯を磨くことです。
すこし行儀悪いと怒られそうですが、リビングや勉強部屋で、

“毎日やる生活習慣といっしょに、必ず座って、歯ブラシをする”

が、長続きさせるコツです。

  • お父さんは毎朝、スポーツ新聞で昨日のベイスターズの結果を確認しながら歯ブラシをする。
  • 母は午前中に家の後片付けが終わって、昼の連続ドラマをみながら歯ブラシをする。
  • お兄ちゃんは勉強のふりして毎日、漫画雑誌を読んでいる間中、歯ブラシをする。
  • お姉さんは、ダイエット運動のカカト上げ運動の間中、歯ブラシをする(危険を考慮してね)
  • おじいちゃんは毎晩、夜のニュース番組をみながら歯ブラシをする。
  • おばあちゃんは毎晩、湯船に浸かっている間中、歯ブラシをする。

j またちょっと歯磨き粉の話

洗面台でコップ片手に、水ジャージャー流しっぱなしで歯ブラシ10分は、もちろんワタシでもムリです。
飽きてくるし、足痛いし、メンドクサイし、眠いし。

そこでお部屋の中のどこかで座って となるのですが、
そのときに歯磨剤を使っていると、ヨダレだらけになってしまって、洗面台の前以外だとムリだと思います。

だから何もつけずに、何かをやりながら歯を磨いて
もういいやと思ったらそこで立ち上がって洗面台まで行って、
歯磨き粉をちょっとつけて、仕上げ磨きをすることにしています。
もうさっぱりするためだけに使っている感がしなくもありませんが。

k 一日一回ゆっくりと

人それぞれ生活環境がありますから、自分の生活リズムの中で“毎日必ずやること”と重ね合わせることがコツです。
それぞれ自分の一日を振り返ってみて、ここという所を一ヶ所、探してみてください。
これが歯磨きを続ける、歯を長持ちさせる、コツです。

診療室では、立場上、「毎回、しっかりやりましょうね」とはいっていますが、それでも、一日一回だけでも、ゆっくりちゃんと磨いておけば、かなりのリスクが減らせます。

l 患者さんに、言えなかった

ブラッシング指導をしているとき
「歯ブラシとか歯磨き粉、おすすめはありますか?」
なんて話、よく出ます。
まあ要は、歯ブラシで白いネトネトを落とせばいいだけですから、道具も歯磨剤も、スタンダードでかまわないと思っています。

先日、ブラッシング指導をした一か月後だったので、
「お口の中、よくなってきましたね」なんて患者さんに話しかけたら、

患者さんは、
「高い歯ブラシと高い歯磨き粉買ってきて、毎日一生懸命磨いているんですよ」
という会話をされていました。

(それは、“高い歯ブラシ、高い歯磨き粉の効果”でなくて、
“一生懸命の方の成果”ですよ)
と思ったのですが、モチベーションとかやる気スイッチの話もありますので、

「せっかく高い歯ブラシを買われたのならば、しっかり使わなきゃもったいないですよ。よかったですね。頑張りましょう」
と言っておきました。
ワタシもずいぶん大人になりました。

m それで、実際どうやるの?

昔、「君にもできる野球上達法」という本を読めば、きっと自分も野球がうまくなれると信じていた時代もありました。
実技は、実際にやってみなければ、
“何がわからないかが、わからない”というものです。

歯ブラシも、ここまでなんとなく理解したら、あとは実際に歯医者さんに行って、赤く染めてもらって自分でやってみるしかありません。
そこで、疑問に思ったことをそこで聞きます。
教える側も、患者さんのお顔の表情で「ここはもうちょっとくわしく…」なんて思ったりするものです。

今ある歯を何とかして、長持ちさせていきましょう。

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