2019年4月8日(月)

お口の中を楽しくコラム スペシャル

歯ブラシするわけ その1(基礎編)

1)口の中のばい菌って、見えるよ。

aプラークと食物残渣は違う

食事して歯を磨かないでいて、しばらくして歯の表面を、爪でごしごしっとやると、“白いネトネト”ってやつが、ついてきますよね。

歯の付け根あたりに、白いネトネトっぽいのが、見えるでしょ?

これを、歯垢とかプラークと、言います。
そしてこれが、虫歯菌・歯周病菌です。

食事がすんだあと、歯の間に食べたものが挟まったものは、
食物残渣といっています。

歯垢と、食べ物が歯の間に挟まったものは、全くの別物です。

口の中のばい菌は、
口の中を通過する食べ物をエサに増殖しているのですが、
食べ物自体とは直接の関係はありません。

b歯についてる白いねとねと

ばい菌は、歯に対してカモフラージュ色をしてまとわりつき、
地味に歯を攻撃し続けます。
「なんと賢い自然の摂理でしょう…」などと感心していないで、
この白いばい菌を、歯科用赤インクで染めだしてみます。

プラークは、食べかすではなくて細菌の増殖なので、
歯の全体を、コーティングしているのがわかります。

「虫歯や歯周病にならないための歯ブラシとは…」というところに、少し興味を持ってもらえたでしょうか。

追伸)
この白いねとねとを、プラークとか歯垢と呼んでいるのですが、認知度はどのくらいなのでしょうか。
この名称が、アンパンマンとかどら焼きぐらいまで広く世間に認知されると、世の中からもうちょっと、虫歯や歯周病が減るかもしれません。

cよって、人間が歯を磨くとは

歯を磨くということは、
ごしごしと白く磨き上げるためにするのではなく、
このばい菌をきれいに隅々までふき取って健康を維持する
ということが目的だったのです。

この二枚の写真は違う患者さんなのですが
磨き残しの場所と虫歯になっているところ、似ていません?
「いつも磨けていないところ」が「虫歯になってしまうところ」
とも言えます。

今まで通りただゴシゴシやって、
「さっぱりしたぁ~」だけではだめということに、
気がついていただけたでしょうか。

2)虫歯をちゃんと教えて。

a歯とゆで卵の構造

きれいな、ゆで卵がありました。

さて食べましょうかと手に取ってみたら、殻に小さひびが入っています。
殻をむいていくと中身は、半分ほどが傷んでいました。
外からは、まるでわかりませんでした。

歯も、ゆで卵と同じように、〈三層構造〉からなっています。

  • 薄くて硬い殻 ⇒ エナメル質
  • 本体の白身 ⇒ 象牙質
  • 大事な黄身 ⇒ 神経

レントゲンを見ると、言っている意味がよくわかります。

b虫歯のレントゲン写真

虫歯になってしまった歯を、レントゲンで横から透かして見てみましょう。


(イメージ模型)


(実際の虫歯)

大きな奥歯の右半分、虫歯で大きな空洞になっています。
虫歯の下の空洞は、神経です。
ここまで虫歯が近接していれば、もうかなり痛みます。

りんかくで残っているのがエナメル質です。
右隣の歯も、虫歯菌がエナメル質を溶かして象牙質内部に入りこもうとしているのがみえます。

虫歯は、鏡で見てもなかなかわかりにくいものです。

c虫歯はポーカーフェイス

「センセ~、昨日、こんな大きな虫歯になっちゃたの~」
と、患者さんが来院されます。

しかし、さすがの虫歯菌も1日では、こんなに大きな穴は掘れません。
虫歯はじわりじわりと、エナメル質の下で進行していました。
そして昨日、何かを噛んだ拍子に、支えのなくなったエナメル質が、ドスーーンと落盤事故を起こしたものでした。

みなさん、このぐらいの虫歯、
大した事無いと思っているのでしょう。

そういえば、歯医者に小さな虫歯だと思って行ったら、
“こんなに大きく削ちゃって…”て思いながら帰った経験も、
おありでしょ?

日常の診療でも、
「もうちょっと早く来れば、ちょっと削って詰めておしまいだったのに」という場面に遭遇します。

エナメル質という堅固な城壁はいいのですが、
虫歯になったとき、外見のクールさと実情の温度差に、
ちょっとバタバタしてしまうときがあるのです。

dこの虫歯は、なんで治療しないの?

少し話がそれますが、

エナメル質に小さな着色をみつけて、
「先生、これ虫歯ですよね」
と患者さんが来院されました。

「これ、大ジョブですよ。じゃあまた~」
「…!?」

殻を突き破って象牙質まで達していない
ゆで卵の殻がちょっと茶色くなったぐらいの、
虫歯もあります。

黒い点は消えませんが、ちゃんと歯ブラシしていると、ずっとそのままのときもあるのです。
目くじら立てて何かを詰めての修理するのもどーかな、という場面もあります。

  • これは治療はしなくてもヘイキ
  • これはやったほうがいいな
  • これはだいじょぶ
  • これはちょっと危ない


定期診査の、定点観測は有効です。
経過を見ながら、やはり治療しようという場合もあります。


乳歯の虫歯の場合で、
「もう、大人の歯がすぐ下から生えてきているので、注意深く見守りながら、抜け替わってしまうのを期待しましょうか」
なんて場合もあります。

3)歯周病をちゃんと教えて。

aまず歯の構造

虫歯は、歯の病気です。
では、歯の周りの病気の、歯周病って?

歯は、鏡で見てみると1cm程ですけど、
全長は3㎝くらいあります。
下の3分の2の2cmほどは、あごの骨の中に植わっています。

歯の間が虫歯になるって、上の3分の1での話だったのですね。

b歯周病と虫歯の違い

地面に植わっている“電柱”には、
2種類の災難が考えられます。

ひとつは
電柱の本体が、傷ついたり折れてしまったりした場合。
もう一つは
電柱の植わっている土がぬかるんでしまった場合。

これを歯の災難に置き換えてみると、
電柱本体が折れた、というのに近いのが、虫歯
電柱は無傷だが倒れてしまったが、歯周病です。

もう少し具体的に言うと、

“歯に大きな穴があいてしまったので、抜かれるの覚悟で歯医者へ行ったら、差し歯にしてもらって元通りに使えるようになりましたという場合”は、虫歯。

“「白くてきれいな歯ですが、ぐらぐらしているので、この歯は抜いたほうが噛めるようになりますよ」という場合“が、歯周病です。

ちなみに「歯槽膿漏」とは、“歯肉から膿が出てくる病気”という表現方法で、最近は歯周病という言い方が一般的です。

cなぜ歯周病で歯が抜けるの?

(あまりにもダイナミックなたとえ話のため、「諸説あります」程度で)

海に潜る前は全身くまなく、完璧なウエットスーツで保護します。
弱点といったら、やはり首回りでしょう。
海水が入っていくとしたら、ここしかありません。
これをイメージして、歯の話をします。

全身の骨と内臓は、皮膚(や粘膜)で完璧に覆われています。
もし皮膚が傷ついてそこから細菌が侵入しようとしても、
その部分が腫れて(血液が集まって)、防衛をします。

骨・内蔵のうち、歯は唯一、
皮膚を突き破って外界にさらされている骨です。

体内にバイ菌が入っていこうとするならば、
歯と歯肉の境目が狙われます。


dそして入り口にたむろっている細菌

曲面の歯を平らな歯ブラシで磨くので、
構造上どうしてもこのような清掃状態になりがちです。

磨き残しをそのままにしておくと、
このあたりの歯肉は炎症を起こし、やがて腫れてきます。
歯肉が「腫れる」ということは、言うなれば
ウエットスーツの首周りが伸びてしまった状態です。
細菌はここから侵入します。

いかにも歯に沿って、「バイキンが入っていきます!」って感じがあります。

eなぜ歯周病菌で歯が抜けるの?

細菌が体内に入ろうとすれば、体は反撃に出ます。
細菌は血液がやっつけますから、血液をそこに集中させます。
これが、歯肉が“腫れている”という状態です。

顎骨も、血液の通りをよくしようと協力しますから、
長引くと、顎の骨は“カスカス”になってしまいます。

それと もう一つ、
細菌は歯に絡みついていますので、
バイ菌まみれの歯は体に細菌のカタマリと認識されて、
免疫反応で、異物の除去モードが開始されます。

体はばい菌まみれの歯を認識すると、
顎骨あたり一面は戦場に、
そしてやがて、荒野化してしまうのです。

f歯周病のレントゲン、見る?

レントゲンを見てみましょう。

この模型とこの模型からで、このレントゲンをイメージわきますか。


歯周病のない状態


下の奥歯はほぼ埋まっていない状態。

その手前の何本かはもう抜けてしまっています。

こちらの患者さんは、口の中を見た状態では一見何でもなさそうでも、レントゲンで比べてみると明らかな違いがあります。

g歯周病を、持ちこたえる

先ほどの患者さんの話ですが、
一生懸命歯ブラシをしたら、歯肉の炎症が取れて、
左の写真のようになりました。
同じ患者さんです。
ウエットスーツの首回りが、きつきつの状態になりました。

常に、丁寧に歯ブラシをしておくことによって、
“細菌の進入口の封鎖”
“骨に免疫反応を起こさせない”
の2点により、歯は長持ちします。

身のふたもない言い方をすると、
昔から歯槽膿漏は治らないという言い方をします。
それは現代にいたっても、変わりません。
しかしこれ以上に進行さえさせなければ、
何とか使っていけるものなのです。

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