※こちらのコラムは後編です。前編をお読みでない方は、前編からどうぞ。
初めて入れ歯を入れてみた患者さんとの会話。
入れ歯を入れて電話をしたら「昼間から酔っぱらってんのか」と怒られました。カラオケで高得点がでなくなりました。ろれつが怪しくなって、家族に脳疾患系の病気を疑われました。入れ歯を外したら幼稚園の孫が目を丸くしていました。・・・云々。
いろんなことが起きているようです。
1、入れ歯の痛いとは。
入れ歯を使わなくなってしまう一番の理由は、やはりどこかがちょっと痛いからでしょう。
お口の中で歯がなくなってしまっている部分は、やわらかい皮膚状の歯肉でおおわれています。
そこの歯肉の上に固いプラスチックの入れ歯を乗せてぐっぐっと噛み込めば、入れ歯は0.5mmほど沈みます。
おろしたての革靴でできてしまう“靴連れ”と同じ理屈なのですが、“靴連れ”は冷静に考えると、固い革靴と固い骨に挟まれて、皮膚の柔らかいところにこすれてできる、すり傷です。
患者さんのお口の中でも顎の骨が出っ張っているところがあって、当然そこをおおっている歯肉は薄くて弾力に乏しく、そこに入れ歯が強く当たっていると、こすり傷ができてしまうのです。
入れ歯は石膏模型上で作るのですが、どのあたりが“こりこり”かなんか、全部“ゴチゴチ”の石膏模型ではわかりません。技工士さんも忖度して製作してくれていますが、それでも完ぺきとはなりません。
これが、まずは使ってそのあとに調整が必要になる、一番の理由です。
2、ゆるい・きついも、調整。
ご自分の歯が何本か残っていると、入れ歯が浮き上がらないようにその歯に金具を引っかけます。
この引っかけている金具が、緩すぎるとすぐ、ずり落ちたり浮き上がったりしてしまいます。
また、しっかりしすぎても、取り外しに難儀したり締め付けられ感で不快だったりします。
始めはちょうどよくても入れたり出したりしているうちに、だんだん緩くなってくることもあります。
“ちょうどいい”とは、ほんのちょっと、わずかな範囲でしかありません。これもまた使っていきながらの、いつも調整しているところです。
3、噛み合わせの調整
左右どちらかの片方に紙一枚咬ませただけで反対側はうまく噛みきれなくなってしまうほど、かみ合わせとは繊細なものです。
セット時に薄いカーボン紙をカチカチ咬んでもらって、強く当たっている所と咬み切れていない所を確認して、最終調整をしています。
それでも、患者さんの噛むクセや顎の大きさ・角度や歯肉の沈み具合など、制作過程ではわからないことがいろいろとあります。
一度使ってみたのちに、患者さんとお話しなから調節しています。
4、清潔の維持。
入れ歯を実際に入れて感じるのは、不潔になりやすい環境をわざわざ作っているとも言えなくもない、ということです。
「じゃあ入れないほうが…」という話もにもなるにですが、そこだけを拾えばそういうことになりますが、先ほども言ったリスクとメリットを足したり引いたりすると、入れたほうがいいのです。
もう少し強く言うと、欠損歯が多くなればなるほど、入れなければダメです。
外で楽しくお友達とお食事をしているときぐらいは、ちょっと洗面所に席を外した時についでに少しお口をゆすぐくらいで十分です。数時間の事ですから。
そして帰ってから寝る前などお時間があるときには念入りにハミガキ、まあこれは毎日行ってくださいね。そうすれば、入れ歯を入れることによるリスクは、ほとんどなくなります。
5、就寝時の取り扱い。
「寝るときは入れておいたほうがいいのですか」というご質問をよく受けます。一概には言えず、患者さんよってまるっきり回答が違う時があります。
例えばご自分の歯があと数本しか残っていない患者さんの場合、入れ歯を外して寝てしまうと寝ている間にその残っている歯でカリカリと歯ぎしりをしてしまう場合があります。すると、もう間もなく、その歯たちはグラグラしてきてしまうのです。
こういう場合は、寝る前によくお手入れをしたのち、入れてお休みになられたほうがいいでしょう。
ご自分の歯がたくさんあって欠損が数本の入れ歯の場合は、唾液がお口の中を消毒してくれるので、「寝ているときぐらいははずしておきましょうか」とお話する時もあります。
一方、小数歯欠損でも一刻も早くなれましょうという意味を込めて、「夜も入れてなきゃダメです」なんて言ってみたりする時もあります。こうでも言わなきゃ、使いそうにないオーラを感じた時です。(笑)
「入れ歯を入れて寝ていないと、いつ急に地震が来て避難するかも知れないと思うと、よく寝れないんですよ」なんて言われると、「よく洗ったのちに、入れたままお休みになりましょうか」なんても、お答えしています(笑)。
6、保管。
入れ歯は決めたところに置く習慣をつけないと、たいがい出かけるときにあわてて探す羽目となります。
保管は専用の洗浄剤は理想ですが、普通に良く洗って決めた容器に置いておくだけでだいじょぶです。
鍵と時計と財布と定期と携帯と眼鏡と入れ歯。
毎朝、一ヶ所にまとめて置いていても、必ず何かひとつ忘れてでかけているのは、私です。
「マスク忘れた」