たまに「初めまして…」と初診の患者さんとご挨拶をしてお口の中を見せていただくと、奥歯が何本かないままの患者さんに遭遇します。
「だいぶ奥歯が涼しそうですけれども(笑)、入れ歯とやらを入れられたご経験は、おありですか?」
「一回作りましたけど、面倒であまり入れていません。噛みにくくない気がしなくもないですけれども、何とかご飯は食べられているみたいなので、ダイジョブです」
こんな場面、意外とあります。
この模型、上の歯と下の歯で噛んだとしたら、あまり噛み切れなさそうなの、なんとなくわかりますよね。
前歯欠損の入れ歯は、入れていないとカッコ悪いので、使わざるをえないのですが、奥歯だけの入れ歯となると、“咬めるという実感”に“めんどくさい”を加味すると、結果として使っていないという患者さん、います。
私の実感としても・・・
私も若い時の不摂生がたたって、奥歯に二本ほどの入れ歯を使っています。
まあ私も、たまに忘れたまま、家を出てきてしまうことありまして、それほど不自由を感じないまま、一日を過ごします。
患者さんだって、入れ歯の調整で来られたのに、「あっ入れ歯、洗面台の上に、そのまま置いてきちゃったわ」って笑っていますので、似た者同士です。(笑
なれてくると、入れ歯は、入れている時と入れてない時の差、なくなってきます。
だから、「使っていくうちに、だんだん違和感、なくなってきますよ」という話は本当ですし、「あんまり便利という実感もないんだよね」という話にもなりえます。
それでも、とにかく入れ歯は、入れておかねばならない理由があります。
まずは、噛むということでいうと・・・
作った入れ歯が疎遠となってしまっている患者さんの多くは、まずは消化器系等含め、お体が健康そうな患者さんです。今現在、特段お体に問題がみられないので、そんなことになってしまっているのでしょう。
それでも入れ歯を入れておかないと、食べ物を十分に粉砕する前に飲み込んでしまっていますから、体に余分な負担をかけているのは事実です。
人は年を取ると、余裕のあった機能や能力が少しずつシビアになってきますよ・・・ということは耳元でささやいておきます。
それと 実はもうひとつ、
咬むのと同じぐらい重要な話として・・・
残っているご自分の歯の寿命の話があります。
噛むという行為は、自分の体重ほどの力で噛んでいます。この力を、入れ歯を使うことによってうまく分散させて、残っている自分の歯を大事にしていこうということです。
例えば、この上の奥歯が3本ない場合。
この模型を冷静に見てみると、前歯だけで50キロ以上の力を受けていることになります。(下の歯、あるのにね)
100回や1000回ぐらいでは噛んでも何でもありませんが、1日何百回を何年もかけて過度な負担をかけていくと、だんだん嚙み合っている歯がぐらついてきてしまうのです。臨床をやっていると、そんな場面にたびたび直面します。
もうひとつ、この模型。
あの奥に一本残ってる奥歯、すごい負担かかっている感じがしませんか。特に焼き肉屋さん行ったときなんか(笑。
こんな場合も、患者さんの感覚としては、意外と違和感ないまま日常として過ごされているんです。(私もですけど)
こんな場合、入れ歯を入れておくことによって、力が分散されるのです。
どさくさついでに、もうひとこと。
これはある患者さんの本物の模型です。下の奥歯が抜けたまま、ずっと義歯を使わないでいた患者さんです。
よく見ると、上の奥歯2本、噛む相手を探して、下がってきてしまっているの、わかりますか。
ヒトの体は負担がかからなさすぎても、退行萎縮してしまいます。平ったくいうと、使わないと、ぼけてきてしまうのです。
「このままじゃ、もうすぐ抜けちゃいますよ」なんて言い方はしませんが、それでもそんな方向に向かっているのは事実です。
思いついた順の、とっ散らかった言いたい放題をまとめると、
入れ歯を入れる目的は、
1) 食べ物の消化を物理的に補助。
2) 残った歯に力が集中して、ぐらついてきてしまうのを防ぐ。
3) 残っている歯に適度な刺激を与え、退化していくのを防ぐ。
です。
今、「ああ、やっぱ入れ歯入れなきゃまずいよな」と思っている患者さん、さっそく引き出しの奥から入れ歯を探し出してきて、歯医者さんに電話をしてみましょう。